CUTTING EDGE vol.10

「ISO13399」対応によるメリットとは?

グローバル市場でのデジタル戦略に欠かせない工具デジタルデータの国際規格

「ISO13399」対応によるメリットとは?

コンピュータに工具データを取り込む国際的なルールとなった「ISO13399」

 スイス・ジュネーヴに本部を置く国際規格化機構(ISO)が策定し、2006年に制定された「ISO13399」。この国際規格では、国やメーカーの枠を超えて共通の理解を促進するために、工具全般に関わる用語や記号などを定義しています。

 「ISO13399」に準拠した工具データを使用する最大のメリットは、ユーザーが煩雑なデータの個別変換を行うことなく、ダイレクトに切削工具の情報をコンピュータに取り込めることです。これによってCAM、CNCシミュレーション、PLM、工具管理システムなどのソフトウェアを、より効率的に扱うことができます。

 こうした国際的なルールのベースとなったのは、1980年代からドイツの工具メーカーやソフトウェアメーカーが中心となりドイツ国内規格として整備されてきた「DIN4000」という規格。世の中のデジタル化が進むなか欧州各地で採用されるようになり、ドイツ政府が2011年に発表した産業政策「インダストリー4.0(第4次産業革命)」を皮切りに、世界中のメーカーがその対応に力を入れるようになりました。今から約10年前に三菱マテリアルが「ISO13399」の活用にかじを切った時には、すでに欧州各国のメーカーは約30年間に渡って基礎を築いていたのです。
 

ISO13399準拠の工具データのメリット

ユーザーのワークフローはどのように変化しているのか?

 ハードウェア、ソフトウェア、クラウド環境の進歩により、加工を行う製品の完成イメージや3DCADデータを基に「どういった工具でどの加工を行うのが良いか」を、デジタルデータのみで事前検証ができるようになりました。いわゆる「デジタル段取り」です。

 従来は工具に加え、ホルダやアーバー等のデータも紙カタログでページをめくって検索する作業が必要でした。「デジタル段取り」の場合、ユーザーが使用予定の工具を選択すれば、自動的に必要なホルダやアーバー等が画面にリストアップされるようになり、大変効率的になります。
 

顧客ワークフローの変化

 加えて「デジタル段取り」後、干渉シミュレーション等の結果を確認してから、実際の作業に移ることで、これまでトライアンドエラーを繰り返しながら行っていた工程検証を短縮し、品質や能率を向上させつつコストダウンも図ることができるのです。

 こうした先鋭的なワークフローを採用するユーザーは、コンピュータ上で簡単に工具データを活用できる「ISO13399」に準拠した情報のある工具以外、そもそも選択の余地がありません。

工具データの提供に欠かせないプラットフォーマの存在

 多くのユーザーが複数メーカーの工具の比較に利用しているのが、プラットフォーマと呼ばれるインターネット上の工具検索サービスです。現在、アメリカでは「MachiningCloud(マシニングクラウド)」が主流となっており、30社※が「ISO13399」に準拠した工具データを登録しています。

 欧州をはじめ中国やインドでシェアを伸ばすのがドイツ発のサービス「ToolsUnited(ツールズユナイテッド)」。世界最大級となる36社※が「ISO13399」や「DIN4000」に準拠した工具データを登録しています。

 三菱マテリアルでは上記2つのプラットフォーマへの工具データ提供を重点的に取り組んでおり、自社ホームページ上のWEBカタログと合わせて、ユーザーへの工具データ提供の場を広げています。
※2022年11月末時点のデータ

労力削減に注力してきた欧米諸国と教育に力を入れる職人気質な日本

 「ISO13399」の活用について、日本は欧州に大きな遅れをとっているのが現状です。そもそも日本の製造業は教育に力を入れており、習熟度の高い人材が揃うことから、先鋭的なワークフローを採用せずとも品質の高いものづくりが、これまでは可能でした。

 一方、国外では人材の入れ替わりが激しく、習熟度を問わず一定品質の加工を行うためのシステム構築に注力してきたのです。欧州発のそうした効率的なワークフローは、欧州以外の地域にも広く受け入れられるようになってきました。

 日本も労働人口減少やワークライフバランスの見直しにより今後は欧米化が進むはずです。工具のデジタルデータが必須となるシステム導入は長期的な視点での費用対効果が高く、国内でも一段と「ISO13399」に準拠したデータ活用の幅が広がることが予想されます。

約4万アイテムを統一規格でデータ化し、10年で世界に追いついた

 三菱マテリアルが「ISO13399」に準拠した工具データの作成に取り掛かったのが、今から約10年前。新たに開発した製品シリーズはもちろん、特殊受注品を除く既存品のラインナップとなるおよそ4万アイテムもの工具データを、全くの0から作成するには5年近い歳月が必要でした。

 しかし、その時点では約30年かけ下地を整えてきた欧州メーカーと比較し、データクオリティは劣っていたのです。データ上のバグを取り除くため、さらに3年ほどの時間をかけ、先行していた欧州メーカーと遜色ないデータベースを築き上げることができました。

 4年ほど前から国際規格化機構(ISO)に人員を派遣し「ISO13399」の策定にも参画。ユーザーの加工改善、品質や能率の向上、コストダウンを効果的にサポートするための国際規格をバックアップしています。

全自動化、省人化のために求められるのは切削条件等の国際規格

 急速なAIの進化に合わせて、工具自動選択、シミュレーション、CAMといったソフトウェアもより高度な処理が可能となるでしょう。そうした技術がどれだけ優秀でも、基礎となるデータベースのコンテンツが良い品質、十分な量で提供されていなければ、正確な動作は望めません。日本でも機械の全自動化、省人化が進むなか「ISO13399」に準拠した工具データは一層欠かすことができない存在となると考えています。

 また「ISO13399」が定義しているのは、主に工具の形状に関わる規格です。世界のユーザーからは、工具形状以外の動作、推奨切削条件等についていわゆる工具の使い方に関するデータも求められるようになっています。工具の使い方については、現状、国際規格化の動きがみられるものの、まだ国際規格として策定されていないなかで、三菱マテリアルとしてはどのようなアプローチができるのか、30年の遅れを10年で取り戻した経験があればこそ、次世代の取り組みを牽引する大きな役割があるのではないでしょうか。