FOCUS on PERFORMANCE vol.8

PRÄWEST社

75年にわたる、最先端の製造と機械加工技術

PRÄWEST社

PRÄZISIONSWERKSTÄTTEN (PRECISION WORKSHOP)

DR. -ING. HEINZ-RUDOLF JUNG GMBH & CO. KG
75年にわたる最先端の製造と機械加工技術。

INTRODUCTION

 Präwest社は、ドイツに拠点を置き、直径2,500㎜にも及ぶ特殊部品を製造するグループ企業です。航空宇宙業界から重工業まで幅広い業界に利用される様々なタービン、静止部品やケーシングなどの製造を手掛けています。高品質なコンポーネントやアセンブリのため、最新の工作機械を揃え、最新の裁断技術を追求しています。3Dプリントをはじめとした新技術にも積極的に取り組んでいます。

 複雑化したアプリケーションを日常的に扱う事で、厳格な規定や技術標準を伴ったコンポーネントに用いられる難素材の高度な加工を行っています。しかし、アプリケーションに対して、社内の工作機械の解決策だけでは期待する結果を得られない場合、工具メーカーの専門知識によるアドバイスが重要となってきます。

 今号では、Präwest社の歴史を振り返り、Präwest社と三菱マテリアルのこの10年間のパートナーシップについてご紹介します。

INTRODUCTION
Christian Hoppe氏 Präwest 工具部門および開発部長 / Reiner Wahlers氏 Präwest マネージングディレクター / Benjamin O’Shea博士 Präwest マネージングディレクター

品質の礎

再研磨プロセスのiMXツールヘッド / 重工業向けのコンポーネントの特殊加工

 Präwest社は、第二次世界大戦直後の1945年、航空事業の専門家であるHeinz Hampel氏によりドイツのブレーメンで設立されました。しかし、戦後の混乱期に発せられた政府からの飛行機製造制限の影響により、たばこ産業の特別な機械加工のアプリケーションから操業を開始しました。それから2年後、Präwest社は創業の基本に戻り、航空機の部品製造に集中していきます。

 創業時からPräwest社は製品の品質に重点を置き、短期間でドイツの民間航空ビジネスの中で地位を確立します。1970年代後半までわずか25名の従業員数にもかかわらず、堅実な成長をみせ、小規模ながらも非常に専門性の高い航空機部品加工の工房として活躍しました。1980年の早い時期には、Heinz-Rudolf Jung工学博士による経営となり、博士によってPräwest社は次のレベルへと発展してゆきます。

 Präwest社の社会的な信用を基に、先見性のあるオーナーは、新しい戦略目標を設定するテクノロジーに注目します。これらの目標はPräwest社の航空宇宙業界内でのさらなる拡大を含んだものですが、さらに重要なことは、確固たる品質を保持した上での、自動車業界、石油ガスエネルギーといった、他分野への事業の多角化でした。

 多角化は、Präwest社の新たなビジネスチャンスを見いだし発展させることだけではなく、同社の航空宇宙ビジネスの強化と近代化による技術的能力の活用をもたらします。Präwest社はドイツで初めて同時5軸CNC加工機を導入した会社の一つとして、特殊なコンポーネントやニッチな製品に対してのより高い精度とパフォーマンスを達成しました。一人の人間から始まったこの取り組みは、地方の一つの小さな会社となり、瞬く間に現代における国際的企業へと成長を遂げ、今に至っています。

複雑な形状への機械加工ストラテジーの最適化を計画 / 高精度iMXツーリング / 工具のプリセットと保管

適応および特化

 Präwestグループは現在、世界における主要なOEMのTier1サプライヤーであり、次の3社から構成されています。Präwest社はサイズの大きい、重量のある部品の加工に特化し、PRE‐AERO社は2015年にブレーメンに設立され、航空宇宙分野の小型部品の大量生産加工を行っています。CHAMPION PRECISION社は特定のニッチ製品のために、中国とのジョイントベンチャーとして2017年に設立されました。

 Präwestグループは、新しい機械加工の要求に、熱意ある開発チームと、130を超えるCNCの加工機、24のロボット(自動制御機械装置)の最先端加工設備を用いて、取り組んでいます。Präwest社の多角化の成功は、それぞれの会社で加工された異なる商品の数量と汎用性により明らかです。航空宇宙関連、タービン、オーガニック・ランキン・サイクル・システム、ターボチャージャーコンプレッサーおよびタービンホイール、真空技術システム、エネルギー・石油・ガス産業向けの部品など様々な商品を製造しています。

 素材、形状、サイズについての機械加工への要求は、過去数十年で急激な変化を遂げており、それに従い、製造に携わる会社にとって、柔軟性、適応性が重要な役割を果たすことになります。

 今日において革命的かつ有益なものもすぐに時代遅れになりえます。特に航空宇宙業界では、ロールスロイストレントシリーズ、GE-9X、A320neoの2エンジンオプションの一つであるPratt & Whitney GP and PW1100Gシリーズといった先進の高燃費性能を備えた飛行機エンジンの出現が示すように、最新の技術上の大きな発展による変化はすでに当たり前となっています。

 この進歩はニッチ製品に特化することが不可欠であるということを意味しています。Präwest社のマネージングディレクターReiner Wahlers氏は市場の成長についてこう話します。「業界の状況は5年から10年のサイクルで絶えず進化しています。そのペースに対応し、競争力を維持するためには、我々も変化しなくてはなりません。10年前、翼桁、フラップ、機体といったアルミ製の機械部品が我々の主力商品でしたが、今ではガスフロー部品やケーシングを含むエンジン部品に完全に特化しています」。

 ブリスク、ブレード、ベーンクラスタ、インペラまたはリング、ディスクといった特別な航空宇宙部品の加工は多くの製造業者にとっては難易度の高いものです。課題は、主に加工するのが難しい被削材の性質にあります。チタン合金、インコネル、ニッケル、コバルト基合金、同様にステンレスやその他の耐熱合金はそうしたコンポーネントに用いられる最も一般的な素材です。そして、これらの難削材はPräwest社が機械加工において最も高い専門技術を持った領域になります。新しい顧客プロジェクトの獲得には、難削材へのアプリケーション、複雑な形状のアプリケーション、一定レベルの自動化を可能にするアプリケーションという3つの要因が社の決定に影響します。Präwest社マネージングディレクターのBenjamin O’Shea博士は「顧客の要求の中で3つの基準のうちの2つが満たされていれば、おそらく、我々にとって魅力的なプロジェクトで、受注したい案件と言えます」と話します。

 Präwest社は自社のハイテクの工房だけでなく、工具研削施設や、品質保証部門を備えています。合計12台のCNC研削機械、自動工具登録のための新しいERPシステム、先進のCAD/CAMソフトウエアなど、Präwest社はカスタマイズされた切削工具を設計製造するための設備を全て備えているのです。

 高レベルの自動化による最も高い精度の生産が求められる航空宇宙でのアプリケーションにおいては、工具のプリセット、光学表面測定、校正プロセスはデジタル処理され、直接工作機械上に反映されます。工具開発部門長(head of the tool development department) Christian Hoppe氏は次のように話します。「私たちは、社内のツールデータベースにリンクした完全なワークフローを完成させており、工具の形状、プリセットデータ、再研磨情報の安定的な伝達を可能にしました。それにより、必要な全ての工具の情報を機械に瞬時にアップロードすることができます」。

5軸機械加工の準備 / ターニングインサートおよび機械加工戦略

最新のテクノロジー

 他業界の専門家との提携や共同開発は、会社の成功にとって非常に重要な役割を果たしています。三菱マテリアルは、Präwest社が製造するベーンクラスタおよびブリスクといった部品の加工プロセスの生産効率向上や加工手順最適化を図るために提携している切削工具のサプライヤーの一つです。

 2014年、三菱マテリアルヨーロッパ本部に属するMMC Hartmetall GmbH社の営業担当者であるWolfgang Schmidt氏は、クラスタの機械加工の理想的なソリューションとしてヘッド交換式iMX high feed エンドミルシリーズをPräwest社に紹介しました。Hoppe氏は当時のことをこう語ります。「当時我々は自前の工具の性能に満足できていませんでした。さらに、トロコイド加工方法が主である機械加工戦略では、チタニウムのベーンクラスタの細い溝を機械加工し、部材の残りを仕上げのために僅かにするという我々の期待を叶えることはできていませんでした。iMXシリーズはテストを行ったほかのどの切削工具よりも性能が優れており、全体の加工プロセスを最適化する際に、我々は、クラスタの加工だけでなく、その他の類似の加工技術やパラメーターへの適用において即時に最初の選択肢になるだろうということを確信しました」。

左から/ Christian Hoppe氏 Präwest社 工具開発部長 / Wolfgang Schmidt氏 三菱マテリアル Hartmetall GmbH 営業担当者 / Takayuki Azegami 三菱マテリアル Hartmetall GmbH 航空宇宙製品デザインエンジニア

 iMXシリーズは、三菱マテリアルの超硬ドリルと刃先交換エンドミル両方の強みを結合させたねじ込み式のエンドミルシステムです。このことはヘッドのテーパー部と拘束面およびホルダーが両方とも超硬合金でできており、ネジ部分だけがスチールでできていることで可能になりました。これは、ヘッドの交換が必要になった際、カーバイドの拘束面の正確さを得られる一方で、スチール製のネジが超硬合金のヘッドとホルダーにはめ込まれていることで、精度と剛性が向上するのです。

 Schmidt氏はこう語ります。「Präwest社の初期装備品を分析したところ、iMXシリーズの交換式ヘッドが最も理想的だ、ということが明らかになりました。さらに、様々な形状の製品展開や、長尺のシャンクがあることにより、これらのツールがPräwest社のエンジニアからの仕様に従った複雑な形状や素材を、効率的かつ確実に加工できるのです。最初のテストは10、16、および20のコーナーRタイプで行い、最終形状にとても近い加工が可能なことが分かりました。中間加工の工程が不要となり、他の方法に比べて時間を短縮することができました」。

 多くの製造業の会社にとって加工時間削減は切削工具の選択に非常に重要としているのに対して、Präwest社は省コスト性と同様にプロセスの安定性と信頼性に注目しています。Wahlers氏は話します。「我々は部品を加工するのに最も早い方法を求めません。プロセス全体のコストが重要で、それゆえに、三菱マテリアルやその他の工具メーカーからの提案を喜んで検討します。我々は、部品が厳密にあるべき形で加工されることを、常に確信している状態であるべきだと思っています。iMXのときもそうでした」。

 現在、Präwest社は、ベーンクラスタの製造において、4機の5軸CNCフライス盤において、4つの加工工程でiMXシリーズを活用し、年間1000以上のクラスタを生産しています。また、iMXシリーズはブリスクの連続生産や同様の機械加工技術を持つその他のアプリケーションにも導入されています。

Helicheck Pro machine 全自動工具計測 / CNC研削機械を操作する高度な技術スタッフ

再研磨

 Präwest社と三菱マテリアルの協力関係は何年も前のターニングインサート(材種:VP10RT)の供給時までさかのぼります。さらに、iMXの導入が、通常の顧客とサプライヤーの関係を超えた、長年のパートナーシップとなる一つの節目でもありました。三菱マテリアルはPräwest社の開発ステップに従ったサポートを行い、Präwest社の高い技術力を持ったチームに支援を行ってきました。省コストは特に重要な事項で、他社製の工作機械に対しての会社の調達業務に影響を及ぼします。Hoppe氏はこう話します。「常に我々はアプリケーションのプロセス全体のコストを試算します。工具のコストは重要な項目ですが、社内での工具の再研磨能力により、無駄な物流の遅延が生じず、初期費用を相殺しました。これは、他社とは異なる我々が持つ競争力の一つです。三菱マテリアルの専門家による、専門的な再研磨のトレーニング後、iMXカッターはこの点についても我々の期待に応えてくれました」。

 幾何学的に複雑なiMXシリーズのような切れ刃を持つ高送りの高精度切削工具を再研磨することは簡単なことではありません。

 エッジの形状および全体の寸法公差が研磨の後に満たされていなければ、工具は著しくその性能を失う可能性があります。このことは工具寿命を失う結果になりかねず、高価な原材料を駄目にしてしまう可能性をはらみます。それゆえ、三菱マテリアルは、研磨機械のプログラムを供給することに快く合意し、iMXカッターの研磨トレーニングを行いました。iMXの開発チームメンバーである畔上貴行氏がこのプロジェクトを実施しました。三菱マテリアル・ヨーロッパ本部の航空宇宙アプリケーション製品デザインエンジニアである畔上氏はこう話します。

 「私がトレーニングのために、初めてPräwest社の再研磨施設を訪れたとき、それまで抱いていた不安が瞬時になくなりました。高度な技術のスタッフにお会いして、人為的ミスを防ぐため端から端までオートメーション化された最新式の設備を拝見して、再研磨プロジェクトが成功することを確信したからです。さらに、私が開発に携わった工具が、私たちの大切な世界的なお客様のハイレベルな加工に組み込まれていることを確認し、非常に大きな満足感を得ました」。

高精度の製造と再研磨能力 / 近代的な工房と加工設備

継続する協力関係

 iMXシリーズの実装の成功は、両社のパートナーシップを強化し、協力関係の新しい道を開きました。近年創設されたMTECシュツットガルト(三菱マテリアル・テクノロジー&エデュケーション・センター)ソリューション・センターにより、現在、Präwest社に最新の設備と切削試験へのエンジニアリングノウハウを提供できるようになりました。今後、オープンイノベーションと共同開発がさらに強化されていくでしょう。

継続する協力関係
パートナーシップと技術の共有は成功した協力関係の礎である

 将来のプロジェクトの一つは、最大180㎜の工具の突出寸法での、ステンレス鋼部品のセミラフィングポケットフライス加工のアプリケーションです。Wahlers氏はこう語ります。「我々にとって切削試験でパートナーを信頼するのは初めての経験でした。今までは、我々自身の方法や専門知識に頼ってきましたが、三菱マテリアルとの良好なパートナーシップを築いた経験は、こういったパートナーシップの利益を最前線にもたらしました」。

 金属加工業界において財務利益上でのシナジーは珍しいことではありませんが、新しいパートナーシップを構築するのは、その他の価値が重要です。パートナーシップをスタートさせるときには、巡り合わせというものが言うまでもなく重要な役割を果たします。すなわち、適切な技術を、適切な時間と場所に提供できることや、オープンなコミュニケーション、情報共有、信用と約束といったファクターがビジネスパートナーシップの質と未来に影響します。O’Shea博士はこう締め括りました。「品質はPräwest社の過去75年以上続く基本原則の一つです。これから先、我々が期待している高い品質は、三菱マテリアルの製品やサービスにより叶えられます。単にセールスだけの会社としてではなく、より最先端技術のパートナーとしての役割を果たしていただくことが、このパートナーシップにおいて最も重要視していることです」。

 Präwest社との将来における協力関係とビジネスサポートについて、三菱マテリアル・戦略部(日本)のメンバーである、橘高彰宏氏は話します「三菱マテリアルは切削工具業界のグローバルプレイヤーであり、世界中の顧客のためにワールドワイドに活動しています。Präwest社の中国での企業発展にも、ヨーロッパ同様に高品質な水準で、アジアでの新しいビジネスをご支援できます。これからもより良いパートナーシップを築いていけることを願っています」。

2020年はPräwest社の製造業においての成長と成功の75年目となる