江畑 大輝

 近年,自動車や医療機器,半導体関連装置の需要増大や要求される精度の高度化に伴い,自動盤での小物高精度部品加工の市場に注目が集まっている.そのなかでも,自動車エンジン部品に用いられるインジェクタは,エンジンの電動化・低燃費化に伴い高強度ステンレス鋼・電磁ステンレス鋼などの採用が増えている.

 より高精度・高能率の加工が求められる一方で,SUS303やSUS304といった従来の一般的なステンレス鋼に対してより難削化が進む市場において,ユーザーの加工における課題解決が強く求められている.

 2020年7月,当社ではこれらのニーズに対応すべく,より高い耐摩耗性・耐熱性と合わせて高い刃先品位を有する,小物高精度部品旋削加工用PVDコーテッド材種「MS9025」を市場へ投入した.MS9025では従来の(Ti,Aℓ)N コーティングでは実現できなかった,立方晶の硬質相を維持しながら高Aℓ 含有量を実現する「アルミリッチテクノロジー」を採用し(図1),市場でも高い評価を得ている.

 しかしながら近年,自動盤における小物高精度の部品加工では,より高品位な仕上げ面を達成するため,低速・低送り領域での加工がメインターゲットとなりつつある.ここで,MS9025の低送り加工領域での事例について紹介する.

 図2には,低送り条件[ 被削材:SUS440C,切削条件:Vc= 70m/min,f r= 0.02mm/rev,ap=0.15mm,油性] で加工を行なった際のワーク仕上げ面拡大写真を示している.図2を見ると,MS9025を用いて加工したワーク表面の外周方向にスジ状の傷跡が発生していることがわかる.

 自動盤小物高精度部品加工においては,多くのユーザーで部品の寸法安定性および仕上げ面の品位が重視される.そのため図2に見られるような加工傷は,工具寿命と判断される要因となってしまう.そこで当社では2022年4月,低送り領域における寸法安定性,および加工面品位を向上させた小物高精度部品低送り加工用PVDコーテッド材種「MS7025」を商品化した.

 ここでは新材種MS7025の発売に至るまでの開発課題,採用した新技術および切削性能について紹介する.

ツールエンジニア(2022年 6月号)掲載

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